月夜見 “初売りは三日から”

         *「残夏のころ」その後 編



学生の学生による学生らしい長期休暇の過ごし方と言えば、
第一話の冒頭で浚ったことにカブりかねないが、
よほどのこと、熱中しているスポーツなり目標なりを持つ人たちを例外に、
アウトドアにせよ街なかにせよ、
仲間と繰り出して楽しく遊び倒すこと、に尽きるのだろうが。
それに必要な軍資金が足りなけりゃ、
寝れば回復する無尽蔵な体力と、
自由自在な時間繰りを可能とする身を生かしての、
短期集中アルバイト、というところかと。
リゾートでのバイトなら、それがそのままバカンスになろうし、
ご近所の町中バイトも、それなりの旨みはたんとあり。
気になるあの子と鉢合わせしたり、
売り出しの情報を一足早くゲット出来たり、
社員販売扱いのお得なワケアリ商品をゲット出来たり、
パートのおばさまたちのマスコット扱いされたりvv

 「最初の1個以外は、
  あんまり“旨み”とも思えないんだけどもさ。」

 「お、そういう罰当たりを言うか、こいつはよ。」

ウチの売り出し情報は、
ご近所一円の誰もが知りたがってるレアデータなんだぞと、
開けたばかりでまださして減ってない、
缶ビールを持ったままの手を振り回しかかる赤毛の店長だったが、

 「だから。そういうの喜ぶのは、
  パートのおばちゃんか、
  お母さんに言われて此処に来てる、
  孝行息子くらいのもんだっての。」

畏れ多くも一番の偉いさんに向かって、
い〜〜〜だっと、思い切り歯を剥いて見せ、
その歯並びのよさをご披露した小柄なバイトくん。
野放図な割に周到でもあり、
少なくとも、此処の産直スーパーを大当たりさせたシャンクス店長の、
姉夫婦のところの末っ子にして、
現在ただ今、こちらのスーパーのパートのおば様たちに、
最も受けてる 人気ナンバーワンバイト、
モンキー・D・ルフィくん、
ちなみにこれでも高校二年生だったりし。
いかにもお元気、お祭り騒ぎも大好きという気性を、
まんま男の子に具現化しました…という感の強いわんぱく坊主なので。
“これでも”と断らないと、到底 高校生には見えずで。

 「可愛い可愛いって、
  一番モテてる奴にそんなこと言われてもなぁ。」

 「うっさいっ。////////」

赤くなるところを見ると、自覚もあるようですが。
(笑)
そんな叔父と甥という身内同士で、
軽快なんだか一方的なんだかな会話が弾んでいる此処は、
先程からも“此処”と引っ張り出している、地域で最も活気のある店、
新鮮な露地もの野菜中心の、
産直販売所型スーパーマーケット…のバックヤードだったりし。
一応は“店長室”という一番上等な一室じゃああるが、
応接用だろうソファーセットには、
寝袋や毛布がくしゃくしゃに丸められてあるし。
テーブルの上には、
カップ麺の空き容器や飲み干されたペットボトル、
賞味期限切れ弁当のパックなどなどが取っ散らかり。
とてもじゃあないが、一番お偉い人の詰めるところらしからぬ乱雑さだが、
それもこの時期では仕方がない。

 「クリスマスからこっち、
  ずっとずっと働きづめになるなんて聞いてねぇっての。」

そう。
クリスマスへの食材セールに始まり、
それが引ければ、次は年越し&新年のご用意は当店で…と、
やっぱり大売り出しへと突入。
買い物客の側もそりゃあ忙しくて大変だろうが、
そんなご家庭の何百軒分という食材を、
引っ切りなしに提供し続ける側もそりゃあ大変で。
戦闘態勢でお越しの逞しいお母さんたちの要望にお応えすべく、
チラシに並べた魅惑の激安商品をきっちりと整え、
それらを手際よくお勘定まで持ってゆく…のが、なかなかに大変で。
チラシと価格が違うとか、
何人様までとの制限なんてないのに、
どうして箱買い出来ぬのかとか、
これってどこに並んでいるの?と、
売り出し日の違う商品を訊かれたりとか。

 「そりゃあサ、
  俺もどっちかって言うと高校生バイトの中じゃあ古株だから。」

頼られるのもまま仕方がないと判ってはいるさと、
そうと言いつつも。
寝不足かちょっぴり目の据わった甥っ子が、
何とも恨めしげに叔父貴を見やるのは、

 「けどよ、クリスマスからこっち、
  ずっとずっと此処に寝泊まりさせられるなんて、
  俺、そんなの聞いてねぇってのっ。」

そう。
イブの晩に、さあシフトが開けたぞと帰りかかったこちらの坊を、
まあまあ、腹は減ってないか、ケーキも唐揚げチキンもたんとあるぞと、
事務所へ誘い込んでからのずっと。
人手が足らぬとのSOSが店内から届くたび、
レジの助っ人だ、配達の受付だ、
搬入の手が足りん、迷子の案内だ…と、
何でだか緊急出動させられ続けて。

 「しまいにゃ“遅いから泊まってけ”が、一体何日続いたと思うっ。」
 「…つか、普通は途中で気づかんか?」

そちらさんは自分チの商売だから、
目の下にクマを作るほど忙殺されても当たり前っちゃ当たり前な店長に、
あっさり翻弄され続け。
そんな状況だとハッと気づいたのが、
除夜の鐘鳴り響く、大みそかの深夜と来たもんで。

 「働いた分の給料は、身内でも誤魔化しなしに きっちり払っとるし。
  明日の初売りには出ないでいいと言ってあったはずだがな。」

 「だったら起こせよ、元旦に〜〜〜。」

大みそかの店頭で、
年越蕎麦の売り子まで、きっちりと手伝わされたルフィくん。
実は夜中がチョー苦手なもんだから、
どこまで意識があったやら。
気がついたら此処で寝ており、
しかももう2日目の朝だと知らされたとあっちゃあ、

 「初詣も行きそびれたし、初日の出も拝めなかったし。」

どうしてくれる〜と、ドングリ眸を懸命に眇めるものの、
単なる上目遣いにしかならないのが、

 “おいおい、困ったお顔になっとるぞ、お前。”

お願い聞いてとか、聞いてくれないとスネちゃうぞとか、
優柔不断な奴がころっと参りそうな、
そっち系のお顔にしか見えとらんがと。
こちらもこちらで、
一種“もの申す”なお顔になりかかった叔父上だったほど。
まま、それはそれとして、

 「初詣ってのは、初めて参ればいつだって“初詣”だろうが。
  初日の出なんてのは、お前、これまでだって…。」

 「だーかーらーっ。////////」

バイトの連チャンは、実を言うと さほど苦じゃあなかったの。
だって、気になる誰かさんと一緒にいられた。
一杯いっぱい顔を見れたし、声も掛けてもらえたし。
休憩室で一緒に弁当も食えたし、うたた寝してたら肩を貸してもくれた。
そんな誰かさんが、一月一日の午前、つまりは元旦に。
近所の神社で、寒稽古の前の禊
(みそぎ)の一種として、
初日の出を観るのも習慣なんだとか。

 『よかったら付き合うか?…じゃねぇ、付き合いますか?』

別に道着とか着てのがっちがちに神聖なものって訳じゃない。
朝早く、それも寒い中ってのはキツイかも知れないから、
是非にとは誘えないけれど、と。
短く刈った髪、もしゃもしゃまさぐりながら言ってくれて。
だから、あのさ……。

  今年の元旦は、
  特別な日のはずだったのによっ。////////

何で、どうして なのかまでは、
まだまだ何だか一向に判らないのだけれど。
何か凄く口惜しいのは、真剣本気なホントの気持ち。
日頃は結構、どんな無茶をされても許せる相手だってのに、
今回ばかりは、この叔父貴が無性に憎たらしくってしょうがなく。
俺の元旦を返せ〜と、なかなかそのお怒りは収まらぬようだったので。

 “…………ふ〜ん?”

せめてもうちっと落ち着いてからじゃないと、告げてやれないなぁと。
こちらはこちらで、実はまだ、とある切り札を抱えておいでの余裕の叔父様。

 『……ありゃまあ。』

年越蕎麦を捌いてたその店頭から、
そりゃあ頼もしい御仁に抱えられて店長室まで運ばれた坊だったこと。
売り子をしていたその途中、
寝不足が祟ったか、突然座り込んでの寝入ってしまったルフィだったの、
手にしていたお玉ごと難無く受け止めた、年上だけれど後輩の誰か様。

 『大丈夫でしょうか、過労とか…。』
 『ああ、そういうんじゃないって。』

こいつの夜中は12進法での二桁からでな、
十時を回ると、体が眠れ眠れモード入っちまう。

 『紅白を最後まで観たことが、
  この年になっても一度もないって変わり種だ。』

どーだ可愛いだろうと、ソファーに寝かせた甥っ子を自慢したところ、

 『…そうっすね。』

そちらさんもまた、視線はそのままルフィの寝顔から外さずに、
うんと大きく頷いたロロノアくんだったので。

 “そんなややこしいことへ付き合わなくとも、脈は有りだと思うんだが。”

というくだり、早いこと話してやりたいような、
もちっと焦らして
“んきぃ〜っ”と地団駄踏んでる可愛いところを堪能してたいような。


  どっちにしたって困った叔父様ですが、
  初売りへの準備は済んどるのかね、店長さんよ…。





   〜どさくさ・どっとはらい〜  2011.01.03.


  *地味に力仕事が多かった年末年始だったので、今頃 腰が痛いです。
   それはともかく。
(まったくだ)
   以前にリクエストいただいて書かせてもらいました、
   『先輩ルフィと後輩ゾロ』の続き…です。
   ウチでは珍しい Ver.なので、
   時期的にも合うかなと書き始めたものの。
   またもやすれ違いっぷりも甚だしいお話になっております。
   時代劇の親分さんと坊様以上に、
   進展しない二人かもしれないぞ?(おお怖い)

めるふぉ 置きましたvv めーるふぉーむvv

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